表札 | Shimizuさん

表札 | Shimizuさん

牧師さんご一家のShimizuさん。聖書で「キリストの復活を表す花」とされるユリをモチーフに、表札を制作しました。ユリの花は雄しべから葉っぱまで、一本のフラットバー(鉄の棒)からできています。

 
最初に、こちらの希望する大まかなイメージをお伝えしました。その後も2~3回打ち合わせをして、私たちの希望を汲みながら、水上さんがデザイン画を仕上げてくれました。その時点ではまだ、平面図から完成をイメージするのが難しく「どうなるのだろうか?」と、ドキドキでした。

私たちにとって、大変興味深くうれしかったのは、制作工程の途中で作業に参加できたことです。このときは、すでに7割近く出来上がっていて、この時点で「ああ、この作品が我が家の顔になるのだな」と実感できました。その未完成品を炉で熱し、真っ赤になったところをハンマーでたたく、という作業を、家族皆でかわるがわる体験しました。ハンマーを打ち下ろす作業は大変でしたが「表札のこの部分は自分がかかわって作った」ということが目に見えて残るのは、感慨深いものがあります。家族がひとつの思い出を共有したことで、完成した作品を長く大切にしたいという愛着につながりました。

少し話はそれますが、工房で鍛鉄体験をする前、ヨーロッパを旅する機会がありました。そこで、門や看板に鉄を使った素晴らしい作品を数多く見かけました。今回、実際に自分がハンマーを振るったことで、鉄製品がより身近になりました。「知る」「経験する」ことで見えてくる世界があるのだと気づかされました。

また、趣味のクラシック音楽鑑賞でも、ヨーゼフシュトラウス作曲の「鍛冶屋のポルカ」を、より深く楽しめるようになった気がします。来日したヨハンシュトラウス管弦楽団の演奏を聴く機会があったのですが、彼らは金床を楽器として打ち鳴らします。まさに、私も耳にした鍛冶屋さんの音です。このような曲があること自体、鍛鉄はヨーロッパで伝統のある文化なのだと思いますが、そんな歴史に思いを馳せながら、演奏を満喫するのは楽しいものです。

そして今、自宅の玄関を出て鉄の表札を目にするとき、私はそこから様々な音が聞こえてくるような気がしてなりません。それは、工房で家族とハンマーを使って鉄を打ち叩いた音でもあり、コンサート会場で響いている金床の楽器としての音でもあります。表札一つで、こんなに世界が広がるなんて、制作をお願いして本当によかったと思っています。